目の前で人が死んだかも?
いつものように付き合いで、1件目の居酒屋から気の合う仲間同士で行った2軒目の飲み屋。
会話も弾みほろ酔い気分でいい気持ちになった。
誰かがそろそろ出ないと終電に間に合わないと言うので清算を済ませる。
ここは大きな都市の中心部の繁華街であるが、タクシーを使って少し遠い所まで帰るとなると5000円は必要である。
2軒も飲んでさらにタクシー代となれば数万円になってしまう。
時計を見ると終電の時間が迫っている、友人との挨拶もそこそこに急いで駅のホームへと向かう。
改札口の入口では駅員が「最終電車が出ます」と叫んでいた。
0時に近い時間なのかと感じるくらい沢山の人が足早にホームへと向かう。
「良くこれだけの人が遅くまでいるな」と感じながら終電を待っていた。
電車がホームに入り、ドアが開くと信じられないほど沢山の人が降りる。
ふとこんな時間までどんな用で何をしていたのか聞いてみたいと思った。
揉みくちゃになりながらどうにか電車に乗れた。
あらかじめ人が多い事を予測して最後に乗り込み、開かない方のドア側に立った。
ドアが閉まると電車は直ぐに出発する。
改めて電車の中を見渡すと沢山の人である。
スーツを着たサラリーマン風の人やラフな格好をした若い人、仕事に疲れたおやじなど、それぞれが家路に向かう為にお互い会話を交わす事無く電車に揺られている。
走りだして直ぐに「ドタッ」と音がした。
人が一瞬で輪になった。
こんな時間だから私は誰か酔っ払いが倒れたか、飲みすぎて電車の床に吐いたのだと思い最悪だなと思った。
もしそうなら車両を変えようかとさえ考えた。
気になったので人の輪の中心部を見ると、長椅子が2列並ぶ間の床に女性が寝そべっていた。
両側の椅子には既に誰も座っていない。
周りの人も遠巻きに観察しているが誰もその女性に触れようとしない。
口からは泡を吹き目は白目を剥いている。
それを見た瞬間ヤバイと感じた。
数秒もしないうちに痙攣をし始めた。
誰かが、「車掌を呼ばないと!」と叫んだ。
それを聞いてとっさに私は1両目の運転席に走った。
沢山の人の間を掻き分けるようにして。
そして運転席の窓に向かって割れる勢いで「2両目急病人です!!」それだけ言ったのは覚えているが後は何を言ったか覚えていない。
運転手は私の様子を見てただ事ではないと察したはず。
その話を聞いた1両目の人達は後ろの車両をジロジロ眺めていた。
私はその間を注目されながら早足で歩く。
そして元の車両に戻り、運転手に伝えた事を周りに伝えた。
女性を見ると痙攣をしたままいびきを掻き出していた。
尚更、危ないなと感じながら駅に着くのをひたすら待った。
こんな状況でも誰も女性を触る事なんて出来ないのだと感じていた。
私も含め救命救助の知識があるわけでも無いし、どうにかしてあげたいが下手に触って何かあればと考える人もいたはずである。
数秒か数分か長い時間を感じていると、やっとホームへと着いた。
連絡を受けた駅員がタンカーを持って待っていた。
2人が女性を担ぎ上げタンカーに載せると、一人の男性が一緒にホームへと降りていった。
駅員が「お連れさんですか?」と声を掛けると真っ青な顔で「はい」と返事をした。
そんなやり取りを見ているとやがて扉が閉まり電車が発車した。
次の駅では倒れた椅子に座る人は誰もいなかったが、その次の駅では何も無かったように乗り込んできた人は椅子に座った。
列車内のアナウンスでは「急病人が出て電車が遅れた事をお詫びします」と3度放送していたが2両目の、倒れた前に座った人はまさか数分前にそんな事が起こっていたなんて想像もしていないはずである。
私はその事に関わったので、他人ではあるが命に別状がなければと考えていた。
翌日の新聞を見たが、何も載っていなかったでの一安心であった。
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